食道がんとは
食道は、喉と胃をつなぐ管状の臓器で、食物を胃へと送り込む働きがあります。消化管の一つですが、食道に消化機能はありません。
食道にできるがんを食道がんといい、日本人の食道がんの多くは、食道の中央あたりや下部(胃との接続部分に近いあたり)に発生します。食道の構造は、一番内側から粘膜層、粘膜下層、固有筋層となっており、一番外側には外膜とよばれる薄い膜があります。
食道がんは粘膜層の細胞が変異してがん化したもので、がんが大きくなると外側へと拡がっていきます。外膜を突き抜けて広がると、食道付近にある気管や大動脈などへ拡がっていきます。これを「浸潤」といいます。
また、食道の周囲には血管やリンパ管もたくさんあり、がん細胞がリンパ節に拡がったことを「リンパ節転移」といいます。リンパ節を通じて全身へ拡がる(転移)こともあります。
食道の周囲には多くのリンパ節があるため、比較的早いうちから食道に近い頸部、胸部、腹部のリンパ節への転移を起こしやすいといわれています。また、がん細胞が血管に入ると、血流にのって全身を回り、肺、肝臓、骨などへ転移します。
食道がんは、そのでき方により大きく二つのタイプがあります。一つは食道本来の粘膜からできる「扁平上皮がん」で、もう一つは胃酸の逆流などが原因でできる「腺癌」です。日本人の場合、およそ90%は「扁平上皮がん」です。
食道がんは、発見されたときの状況により、その後の生存率が変わります。国立がん研究センターが2019年に公表した統計結果(がん診療連携拠点病院等 院内がん登録 2010-2011年 5 年生存率集計 報告書)によると、早期食道がん(ステージⅠ)の5年生は80%以上ですが、進行した食道がん(ステージⅣ)の5年生存率は11~13%ほどです。このとこからも、早期に発見することが大切であることが分かります。
食道がんのリスク因子
食道がんのリスク因子は、食道がんのタイプによって変わります。
扁平上皮がんの場合、大きなリスク因子は飲酒と喫煙です。飲酒の場合、アルコールが体内で分解された後にできる「アセトアルデヒド」という物質により、がんが発生すると考えられています。日本人は特に、このアセトアルデヒドを分解しにくい体質の人が多く、食道がんになるリスクが高いといえます。
アセトアルデヒドを分解しにくい体質の人は、飲酒により顔が赤くなることが分かっており、このタイプの人を「フォーマーフラッシャー」」といいます。フォーマーフラッシャーで、かつ、喫煙もする人は、食道がん(扁平上皮がん)のリスク因子を、二つ抱えていることになります。
腺がんの場合、大きなリスク因子は、胃酸が逆流する「胃食道逆流症」による、「バレット食道」という状態です。喫煙する人、肥満の人、欧米型の食生活を好む人は、腺がんになりやすいリスク因子をもっていることになります。近年の日本では、食生活の欧米化が進み、腺がんになる人も増えています。
食道がんの症状
初期の食道がんには、目立った自覚症状がありません。ある程度進行してくると、次のような症状がみられるようになります。
- 胸のあたりの違和感
- 食べ物がつかえる感じ
- 体重の減少
食道がんは周囲の臓器への転移をしやすいため、気管や肺、大動脈などへ転移するほど進行すると、胸の奥や背中が痛くなります。食道がんが声帯をコントロールする神経に転移すると「嗄声(させい 声がかすれること)」になりますし、気管支や肺に転移すると咳が続くようになります。
食道がんと内視鏡検査
食道がんの初期には自覚症状が無いことが多いため、早期に発見するためには、食道を内側から観察できる内視鏡検査(胃カメラ)が有用です。胃カメラの検査を受けるときは、食道の内側もあわせて観察するため、胃がん検診などにより早期に発見されることがあります。
近年では、「NBI拡大内視鏡」という新しい検査機器が開発されており、それまでは見つけることが難しかった、ごく初期の小さながんも発見できるようになりました。
食道がんは、早期に発見できれば治療が可能ながんです。ごく早期のまだ何も自覚症状がない状態でも、胃とあわせて内側からしっかりと観察し、小さな病変でも見つけることができるようになりました。食道だけをターゲットとした内視鏡検査はほぼありませんが、胃の内視鏡検査とともに受けることができます。検診や人間ドックなどの機会を利用して、定期的に検査を受けるようにしましょう。
治療方法
食道がんの治療法には、大きく4つあります。
内視鏡検査による治療
内視鏡検査により食道の中を直接観察しながら、ごく小さながんを切除します。食道粘膜表面のがんと、その周囲の組織をはぎとりながら切除する方法です。食道がんが初期(ステージⅠ)の場合に適応となります。内視鏡検査による治療を行った後、食道が狭くなる(狭窄)ような場合は、化学療法や放射線療法を組み合わせて行うこともあります。
外科手術(開腹手術、腹腔鏡手術)
がんを含む食道(または全部)を、摘出する方法です。食道がんが粘膜層を超えて浸潤している場合や、粘膜層まででも全周に近いほど拡がっているような場合に、適応になります。がんの大きさなどにより、化学療法を組み合わせて行うことがあります。
化学療法
抗がん剤を使用した治療法です。点滴などで投与する場合と、内服による治療があります。外科手術が適応となる場合も、手術の前や後に、化学療法を行うことがあります。
放射線療法
がんの治療法としては「放射線療法」もあります。食道がんの場合、化学療法と組み合わせて行う「化学放射線療法」を行うことがあります。
参考
国立がん研究センター がん情報サービス 食道がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/esophagus/treatment.html
大阪赤十字病院 がん診療情報・がん診療センター 食道がん
https://www.osaka-med.jrc.or.jp/cancer2/each/cancer2.html
浜松医科大学 外科学第二講座 食道がんについて①
https://hama-surg2.jp/treatment/%E9%A3%9F%E9%81%93%E7%99%8C%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E2%91%A0/
日本食道学会 食道がん一般の方用サイト 内視鏡検査
https://www.esophagus.jp/public/cancer/endoscopy.html