ピロリ菌
ピロリ菌は胃に生息しています。
食物を消化する胃液は消化酵素として働くと同時に、その強い酸を利用し外界からの細菌の侵入を防いでいます。そのため強酸性(ph1~2)の過酷な環境下では、いかなる生物も生息することは不可能と考えられてきました。しかし最近の研究により、胃の中でも存在できるピロリ菌という細菌がいることがわかりました。驚くことにピロリ菌は、ウレアーゼというアルカリ性のアンモニアを作り出す酵素を持ち、作り出したアンモニアを煙幕のように身にまとうことで、胃酸を中和し、胃酸の殺菌作用を巧みにかわし、強酸性の環境下でも生息できるような独特の性質を持ち合わせていたのです。
ピロリ菌の感染について
ピロリ菌は、飲み水や食べ物、母から子供への口移しを介して感染すると考えられています。人間には病原体を排除する免疫システムが備わっているため、侵入したすべての病原体が体内で生存できるわけではありません。ピロリ菌の場合、侵入したピロリ菌が胃で殺菌されずに生育できるかできないか、その鍵を握るのはピロリ菌に侵入された個体の胃の酸性度と免疫力の強弱によります。そのためピロリ菌に感染する可能性が高いのは、胃酸の生産力が未熟でかつ免疫機能が不十分な幼児期であり、胃酸の分泌能力が十分で免疫機能が確立した成人では、ピロリ菌の感染は稀であると考えられます。
ピロリ菌の感染状況
ピロリ菌保菌者の多くは飲み水を介して感染したと考えられています。そのため水道水などのインフラ整備が行き届いていなかった時期に幼少期を過ごした年代で感染率が高く、日本人の場合、70歳以上で60%以上、60歳代で50%、50歳代35%、40歳代25%、30歳代15%、20歳代7%、さらに中学生以下では5%以下が感染しているといわれています。衛生環境の改善に伴い、近年日本人のピロリ菌感染者は少なくなっていますが、いまだ感染者は多く、おおよそ3600万人の日本人がピロリ菌に感染していると報告されています。
ピロリ菌の症状
ピロリ菌に感染すると、胃は炎症を起こすため、除菌治療などで感染を断ち切らない限り胃炎は持続し、慢性胃炎は徐々に進行し、胃は荒廃していきます。しかしピロリ菌に感染したからといって、胸やけ、吐き気、嘔吐、胃もたれ、食欲不振などの症状のでる方は、不思議なことに少数にとどまります。そのため知らず知らずのうちに胃炎は悪化し、様々な病気を患う原因となりかねません。逆に胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、胃がんの患者さんの多くはピロリ菌に感染しており、ピロリ菌が胃や十二指腸の炎症やがんの発生に関りがあることを疑う余地はありません。ピロリ菌を感染することで症状の出現する人の割合は、除菌治療を受けられた方のうち、除菌治療後、胃の症状が楽になる方の頻度が1~2割であることから、同様に1~2割と推察されます。しかしピロリ菌を除菌することで、胃、十二指腸の病気にかかり難くなり、胃・十二指腸潰瘍の再発を抑え、特に胃がんのリスクを減少できるため、現在では、ピロリ菌に感染していることが分かった場合は、積極的に除菌することが推奨されています。
ピロリ菌と胃がんの関係
ピロリ菌の感染は胃炎を起こし、持続する胃炎はびらんと再生を繰り返すことでしだいに胃粘膜の萎縮を進め、部分的に腸上皮化生と呼ばれる‘胃なのに腸に近い細胞’に変化しながら、慢性胃炎は進行していきます。腸上皮化生は胃以外の消化管でも起こる現象ですが、がん化しやすいため、前がん状態の細胞ともいえます。ピロリ菌感染が胃がんを引き起こすこの一連の流れは、簡単に表すと 正常胃→ピロリ菌感染→慢性胃炎→腸上皮化生→胃がん となります。ピロリ菌を除菌すると、胃炎が治まり胃癌の予防になることは証明されていますが、治療効果を上げるためには、なるべく早い段階で除菌するべきで、腸上皮化生を起こす以前で除菌できれば除菌の効果は高まると思います。さらに胃がん発症リスクを未感染者と同等程度にするには、胃炎はあるものの萎縮性胃炎にはまだ至っていない状態で除菌治療を行うことが必要で、 Point of no return(あと戻りのできない地点)は萎縮性胃炎発症直前になります。
ピロリ菌の除菌法
胃酸分泌を抑える胃薬と2種類の抗菌薬を用いて除菌療法を行います。この方法の除菌成功率は80%台です。1度目の1次除菌治療に失敗した場合には、続いて2次除菌薬による治療に移行します。2次除菌での成功率は95%以上にもなり、除菌治療の成功率は通算すると極めて高いものになります。一度除菌されると、再発の可能性は2~3%と考えられていますが、除菌判定時の偽陰性*による誤差を含んでおり、実際は1%未満であると考えています。
*偽陰性とは、実際にはピロリ菌がいるにも関わらず、除菌されたような誤った判定をされること。
除菌治療の副作用
除菌薬を服用することで、腸内細菌のバランスが崩れ、下痢や軟便を引き起こす可能性があります。除菌薬が体質に合わない場合は発疹や発赤、かゆみを引き起こします(※副作用が起こること自体わずかな可能性です)。稀に、口内が苦いと感じたり発熱を引き起こすこともあります。いずれにせよ除菌薬を服用し始めてから体調が悪くなった場合は医師にご相談ください。
除菌の際の注意点
処方された薬は必ず用法・容量を必ず守って服用してください。 過去には2日間の内服のみで除菌に成功された方もおりましたが、薬の飲み忘れや自己判断での中断は治療の成功率を著しく低下させるだけでなく、ピロリ菌が抗菌薬に対する耐性を得てしまい、今後行われる2次除菌の治療効果を下げることにもなりかねません。また1次除菌治療の成功率は90%を割り込んでおり、除菌判定検査は必ず受けるようにしましょう。除菌不成功時には、引き続き2次除菌治療を行います。
当院の処方薬
1次除菌薬 | ボノプラザン40㎎+アモキシシリン1,500㎎+クラリスロマイシン800㎎+ミヤBM4錠 |
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2次除菌薬 | ボノプラザン40㎎+アモキシシリン1,500㎎+メトロニダゾール500㎎(+ミヤBM4錠) |
3次除菌薬① | ボノプラザン40㎎+シタフロキサシン200㎎+メトロニダゾール500㎎(+ミヤBM4錠) |
3次除菌薬② | ボノプラザン40㎎+シタフロキサシン200㎎+アモキシシリン1,500㎎(+ミヤBM4錠) |
ピロリ菌検査方法
ピロリ菌の検査は、内視鏡を使わない方法と、内視鏡を使う方法があります。
内視鏡を使わない検査
尿素呼気試験
診断薬(錠剤:1錠)を服用し、服用前後の呼気を集めて診断する方法です。検査時間は30分程です。
感染診断にも除菌判定にも利用できます。
※ピロリ菌の持つウレアーゼという酵素が尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する特性を利用した方法です。診断薬は自然界に存在しない13C(炭素元素)でつくられた尿素を主成分とし、ピロリ菌がいれば診断薬から13Cの二酸化炭素が産出され、発生した13C二酸化炭素ガスは血液中に取り込まれ、最後は肺から呼気として対外に排出されることを利用した検査方法です。
抗体測定検査
ピロリ菌に感染すると、人体は病原体から体を防御するために抗体(免疫グロブリン)という蛋白質を作ります。抗体測定検査とは血液や尿を採取し、血液中や尿中に存在する抗体の有無を調べる方法です。簡便で小児にも検査が可能ですが、除菌判定には向かないため、除菌治療を受けたことのある方の感染診断にも不向きです。
糞便中抗原測定検査
糞便の一部を採取し、糞便中に含まれるピロリ菌の菌体成分(抗原)の有無を調べる方法です。簡便で信頼性も高く、小児でも検査が可能であり、感染診断にも除菌判定にも利用できます。
内視鏡を使う検査
培養法
胃の粘膜を採取し、それをピロリ菌の発育可能な環境下で5~7日培養して判定します。感染診断にも除菌判定にも利用できます。
迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌の持つウレアーゼという酵素が尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する特性を利用した方法です。採取した胃を試薬に入れ、ピロリ菌が存在すれば、試薬が赤く変色することで菌の有無を診断します。感染診断にも除菌判定にも利用できます。
組織鏡検法
内視鏡で胃粘膜を採取し、特殊な染色をほどこして、顕微鏡で菌の有無を視認します。感染診断にも除菌判定にも利用できます。
小児のピロリ菌の対応について
ピロリ菌の検査は、尿検査や便検査法もあり何歳でも可能です。問題は何歳の時点で除菌治療を行うかという点でしょう。ピロリ菌が胃がんの原因である以上、なるべく早期での治療が望ましいのは自明の理であります。これまでの報告では、20代のピロリ菌陽性の人の内視鏡所見は、胃炎はあるものの萎縮性胃炎にはまだ至っていないことがほとんどです。 20代ではまだPoint of no return(あと戻りのできない地点)を越えていないとも考えられます。そこでひとつの目安は20歳になったら除菌治療を行うことです。また体重40㎏を超えると、成人と同量の投薬量で治療を行えますので、もう一つの目安を体重40Kgオーバーともできます。そこであつぎ内視鏡・内科クリニックでは、20歳の誕生日を迎えたらもしくは20歳以前で体重40Kgを超えた時点で除菌治療を行います。
あつぎ内視鏡・内科クリニックの除菌治療の特徴
あつぎ内視鏡・内科クリニックではピロリ菌診療を行っています。
- 当院での特色の一つは、除菌判定検査時期を治療薬内服後3カ月目としていることです。判定時期は2か月後が主流ですが、1カ月判定を先延ばしすることで偽陰性を防ぎ、当院の再発率は1%未満です。
- 当院では、1次除菌薬に整腸剤を合わせて処方致します。抗生剤の影響でお通じの状態が変化することがあります。腸内細菌叢への影響を最小限に抑えるため、整腸剤を併用します。
- 当院では、2次除菌に失敗した方、アレルギー等でこれまでの治療薬を使用できない方にも、自費診療にて対応いたします。
- そのほか内視鏡専門クリニックならではの、きめ細かい内視鏡検査でフォローアップを致します。