胃がんとは
胃は、口から食道を通ってきた食べ物を一時的に溜めておく役割があります。その構造は、一番内側から粘膜層、粘膜下層、固有筋層、漿膜となっています。
胃がんとは、胃の一番内側にある「粘膜」の細胞が変異し、がん細胞となって大きくなっていくものです。がん細胞の拡がりには法則性はありませんが、大きくなるにつれて、粘膜から粘膜下層、固有筋層、漿膜へと、胃の外側に向かって拡がっていきます。がん細胞が漿膜を突き抜けてしまうと、胃の周りにある臓器(大腸や膵臓など)へも、がんが拡がっていきます。これを「浸潤」といいます。
また、がん細胞が大きくなってくると、血液やリンパ液の流れにのって全身へと拡がっていくこともあります。これを「転移」といいます。
ただし、すこし特殊ながんとして、「スキルス胃がん」があります。これは、粘膜での変異は目立たないのですが、胃の壁を厚く硬くしながら拡がっていくがんです。
胃がんは、発見されたときの状況により、その後の生存率は変わります。早期に発見できれば生存率が高くなり、発見された時点で進行してしまっている場合は、生存率が低下します。国立がん研究センターが2019年に公表した統計結果(がん診療連携拠点病院等 院内がん登録 2010-2011年 5 年生存率集計 報告書)によると、早期胃がん(ステージⅠ)の5年生存率は90%以上ですが、進行した胃がん(ステージⅣ)の5年生存率は9%ほど、およそ10倍の違いがありました。このとこからも、早期に発見することが大切であることが分かります。
近年は、胃がん検診を受ける人が少しずつ増えたことや、胃がん検診の精度が上がったことから、比較的早期の段階で胃がんを発見することができるようになってきました。そのため、「進行するまで発見されない」ということが減り、進行がんは減少傾向にあります。
胃がんのリスク因子
胃がんには、大きく二つのリスク因子があるといわれています。一つは喫煙や食生活などの生活習慣です。国立がん研究センターの多目的コホート研究によると、食生活の中でもとくに、塩分の多い食事を好む人たちは、塩分の少ない食事を好む人たちの2倍以上、胃がんになる確率が高いことが分かっています。また、喫煙者の中でも喫煙本数の多い人は、喫煙しない人の2倍以上、胃がんになる確率が高くなることが分かっています。
もう一つのリスク因子は、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)という細菌への感染です。
ピロリ菌は、かつての日本では井戸水などに生息していると考えられていました。しかし、衛生環境が整った現在では、自然環境からの感染はほぼ無いと考えられており、その感染経路は人から人への経口感染だといわれています。基本的には、免疫機能が不十分な幼少期に母親や父親などから感染し、持続します。大人になってから感染しても、一過性であることがほとんどです。
ピロリ菌は、人の胃の粘膜に感染します。ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を持っていますので、感染が持続するとアンモニアを発生させ、これが胃の粘膜を刺激して胃炎を起こし、長い年月をかけて「慢性萎縮性胃炎」になります。多くの場合は「胃炎」のまま経過しますが、このうちの5%程度が「胃潰瘍」や「十二指腸潰瘍」となり、そのうちのさらに1%程度が「胃がん」になります。日本人の胃がん患者さんのおよそ98%は、ピロリ菌感染が原因であるといわれています。
胃がんの症状
胃がんは、早期の段階では、自覚症状がほとんどありません。何かしらの症状があったとしても、胃がん特有というわけではなく、胃潰瘍や胃炎と似た様な症状です。
代表的な症状としては、次のようなものがあります。
- 胃(みぞおちあたり)の痛み
- 胃の不快感や違和感
- 吐き気、胸やけ
- 食欲不振
- 悪心やおう吐
胃がんが進行してくると、吐血(とけつ 血を吐くこと)や下血(げけつ 「のり」のように黒い便が出ること)がみられたり、るいそう(たくさん食べても痩せてくること)、全身の倦怠感などがみられたりします。
さらにがんが進行して末期になってくると、肝臓や肺など他の臓器に転移したり、お腹全体に拡がると体重減少が顕著になって衰弱したり、腹水が溜まることもあります。
胃がんの初期症状のセルフチェックリスト
下記に「胃カメラ検査をご検討いただくべきチェックリスト」をご紹介します。
また、胃カメラ検査でピロリ菌に感染していると分ければ、ピロリ菌を除菌することで胃がんのリスクを下げることができます。
- みぞおち付近が痛む
- お腹が張ったような感じがする
- 胸焼けや食後によく胃がもたれる
- 食欲不振が続く
- 体重が急に減った
- 原因不明の貧血と指摘された
- 真っ黒な便が出た
- 地域の胃がん検診で『異常』を指摘された
- 慢性胃炎を指摘されたことがある
- ピロリ菌の除菌治療を受けたことがある
- 親族で胃がんの治療を受けている方がいる
- 親族でピロリ菌に感染していた方がいる
当てはまる方は胃カメラ検査を受診いただくことをご検討ください。
特にピロリ菌除菌後の方は胃がんのリスクが残っているため、定期的な胃カメラ検査を推奨いたします。
胃がんと内視鏡検査
前述の通り、胃がんの原因の多くはピロリ菌感染によるものです。ピロリ菌は大人になってからの感染は持続しませんが、幼少期に感染していても何の症状もみられないまま感染が持続します。ピロリ菌に感染していないかどうか、早めに一度は検査を受けておきましょう。検査の結果、ピロリ菌に感染していた場合は、健康保険で除菌治療を受けることができますので、必ず除菌しましょう。
現在の日本では、年代によってピロリ菌の感染率が違います。おおよそ70歳以上の人では感染率80%、40代未満の人では10%くらいがピロリ菌に感染しているといわれていますので、特に40歳以上の方(年齢により20~70%)は、胃カメラの検査により胃の内部を直接観察することで胃炎が起きているかどうかを確認し、ピロリ菌感染の有無を調べることが必要です。
ピロリ菌の除菌が成功しても、胃の粘膜に慢性的な萎縮性胃炎があった人は、胃がんになるリスクはゼロではありません。胃がんの早期発見を目的とした胃カメラ検査は、定期的に受けることで早期発見につながりますが、検査の間隔には決まりはありません。ピロリ菌の状況に応じ、定期的な検査間隔を検討します。
胃がんの治療方法
胃がんの治療法には、大きく4つあります。
内視鏡検査による治療
内視鏡を使って胃の中を直接観察しながら、ごく小さながんを切除できる方法です。胃粘膜表面のがんとその周囲の組織を、はぎとるような形で切除します。初期の段階で選択できる治療法です。
外科手術(開腹手術、腹腔鏡手術)
がんを含む胃の一部(または全部)を、摘出する方法です。胃がんがやや進行している場合に適応となります。
化学療法
抗がん剤を使用した治療法です。点滴などで投与する場合と、内服による治療があります。胃がん治療に使用されるお薬はいろいろありますが、胃がんの進行度などにより選択可能なお薬が変わります。 外科手術が適応となる場合も、手術の前や後に、化学療法を行うことがあります。
放射線療法
がんの治療法としては「放射線療法」もありますが、胃がんに対する治療では適応となることは比較的少ない治療法です。胃がんが進行し、末期となった場合に、外科手術や化学療法と組み合わせて行うことがあります。
参考
国立がん研究センター がん情報サービス
胃がん 基礎知識
https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/index.html
東京大学 胃癌・腹膜播種に対する腹腔内化学療法 スキルス胃癌とは
http://plaza.umin.ac.jp/~phoenix2/scirrhous/#:~:text=%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%82%B9%E8%83%83%E7%99%8C%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E7%89%B9%E5%BE%B4%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
国立がん研究センター がん情報サービス がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv.html
がん対策推進企業アクション 部位別がん基礎講座 胃がん
https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/cancer/basic/stomach_1.html
日本癌学会 日本癌学会主催 第23回日本癌学会市民公開講座 講演1 「胃がんで亡くならないために何をなすべきか」
https://www.jca.gr.jp/public/seminar/023/001_asaka.html
杉並区医師会 病気の話 第16回ピロリ菌について
http://www.sgn.tokyo.med.or.jp/hanasi/index.php?no=20150630
日本消化器病学会 「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対する除菌治療に関するQ&A一覧 疫学
https://www.jsge.or.jp/member/shikkan_qa/helicobacter_pylori_qa
山口県立総合医療センター 消化器病センター 胃がん
https://www.ymghp.jp/%E8%A8%BA%E7%99%82%E7%A7%91%E6%A1%88%E5%86%85/%E8%A8%BA%E7%99%82%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC/%E6%B6%88%E5%8C%96%E5%99%A8%E7%97%85%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC/%E8%83%83%E3%81%8C%E3%82%93/
愛知県立がんセンター病院 胃がん
https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/12knowledge/iroirona_gan/02i.html#a02
日本消化器ない仕様学会 市民のみなさま 消化器内視鏡Q&A 胃内視鏡検査は何年に1回(どのくらいの間隔で)受ければいいですか?
https://www.jges.net/citizen/faq/esophagus-stomach_08
日本胃癌学会 胃癌治療ガイドライン Ⅱ章 治療法
http://www.jgca.jp/guideline/fourth/category2-a.html#H2-A_1
日本臨床外科学会 一般のみなさま 胃がんの3大治療法と緩和ケア
http://www.ringe.jp/civic/igan/igan_04.html