胃潰瘍とは
胃潰瘍とは、胃酸が自身の胃壁を傷つけることによって起こります。胃潰瘍の患者数は、平成29年度の厚生労働省の調査によると19.7万人ほどいると推測されています。
胃酸は、食物を摂取したり、おいしそうな食べ物を見たりすることで分泌されます。また、脳と胃には密接な関係があるといわれており、ストレスを感じると、食事とは関係なく胃酸が分泌されるという指摘もあります。 胃酸は強い酸性であるため、必要以上に胃酸が分泌されると、胃の一番内側にある粘膜が溶けて、「びらん」が形成されます。これがどんどん進んでいくと、粘膜層から筋肉層まで広がり、胃壁の内側にくぼみができたような「潰瘍」となります。
通常ならば、胃粘膜の表面にある上皮細胞が胃壁を保護してくれているため、自身の胃酸で胃粘膜を傷つけることはありません。また、粘膜の一部が傷ついてしまったとしても、新しい細胞は次々とつくられたり、傷ついていない細胞がそこに移動したりして、自身の胃酸で胃粘膜を傷つけることはありません。
しかし、後述する原因によって胃の粘膜に炎症が起こったり、胃粘膜の機能が落ちたりすると潰瘍を形成しやすくなり、胃潰瘍を引き起こすのです。
十二指腸潰瘍とは
十二指腸潰瘍とは、胃潰瘍と同様に、胃酸やペプシンという酵素によって十二指腸の粘膜が傷つき、潰瘍を形成してしまうことをいいます。十二指腸潰瘍の患者数は、平成29年度の厚生労働省の調査によると2.7万人ほどいると推測されています。
十二指腸は胃につながっていて、実際には小腸の一部です。本来であれば胃酸によって食べ物が消化された後に十二指腸に送られ、さらに食べ物を細かくして小腸へ送るという機能があります。そのため胃酸などの消化液が単体で流れ込むことは少なく、粘膜細胞で内側の表面が覆われているため、組織そのものが傷つくことはありません。
しかし、胃潰瘍と同様の理由によって粘膜が傷つくと、そこから十二指腸の潰瘍を形成してしまうのです。
潰瘍ができる理由
潰瘍ができる理由は主に2つあります。
ヘリコバクター・ピロリ菌
潰瘍ができる理由として最も多いのが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染です。感染すると、ヘリコバクター・ピロリ菌はさまざまな病原因子を分泌することで、胃粘膜の細胞や免疫細胞の機能を弱め、自身の感染が長く続くようにします。すると、胃や十二指腸の粘膜そのものに炎症を起こしたり、粘膜の表面を胃酸から守っている粘液の分泌量が少なくなって粘膜が傷つきやすい状態となったりするため、潰瘍を形成してしまうのです。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染による潰瘍発生の割合は、胃潰瘍全体の70%程度、十二指腸潰瘍全体の95%と考えられております。次にあげる薬剤を除くと、それ以外の潰瘍の原因は5%以下と考えられています。
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
ヘリコバクター・ピロリの次に多いのがNSAIDsによるものです。NSAIDsとは、非ステロイド性抗炎症薬のことで、ロキソニン®などの痛み止めの成分です。
NSAIDsには、痛みや炎症の原因となる「プロスタグランジン」という物質の合成を抑制する作用があり、症状を和らげます。しかし、このプロスタグランジンは胃や十二指腸の粘膜を守る因子の調整にも関係しているため、プロスタグランジンの合成が抑制されることで、潰瘍を形成しやすくしてしまうのです。高齢者になるほどNSAIDsの服用量が多くなり、潰瘍の原因になりやすいのです。
潰瘍の症状
上腹部痛
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の症状として最も多いのが、上腹部痛(みぞおちあたりの痛み)です。胃潰瘍では食後60~90分頃、十二指腸潰瘍では夜間や空腹時に痛みが出ることが多くなります。これは、摂取した食べ物が移動する時間に関係しており、胃の中で消化が行われる時間が食後60分~90分程度であること、胃から食べ物が十二指腸潰瘍へ移動すると胃の中が空になって「空腹」と感じる時間帯は十二指腸で消化が行われているためです。
症状としては、鈍痛、焼けるような痛み、うずくような痛みが出てきます。ただし、人によっては胃潰瘍であっても食事を摂ることで痛みが改善したというケースもあり、一概にすべての人がこれに当てはまるとはいえません。
そのほかの消化器症状
腹痛以外には消化器系の症状として悪心、嘔吐、腹部膨満感、胸やけ、げっぷ、食欲不振といった症状がみられます。これらの症状は十二指腸潰瘍に比べると胃潰瘍にやや多いと考えられています。
出血
潰瘍が進行すると、潰瘍部分から出血を起こします。すると、嘔吐物の中にコーヒー残渣様の黒っぽい色の血液が見られます。大量に出血をしていた場合には嘔吐物も赤い血液の色をしています。また、便に血液が混ざって黒い色の便が出ることもあります。
潰瘍と胃がんの違い
実は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍と胃がんの症状はほとんど同じです。そのため、症状のみで胃がんか潰瘍かの区別をつけることは非常に難しいといえます。例えば、胃潰瘍を疑って上部内視鏡の検査をしたところ胃がんが発見された、というケースもあります。
治療法
胃潰瘍や十二指腸潰瘍かどうかを調べるためには、上部消化管内視鏡検査を行います。
検査の結果、胃潰瘍や十二指腸潰瘍であることが分かった場合には、まずは薬物療法を行います。具体的には胃酸の分泌を抑える薬や、胃粘膜の保護する薬を使用して治療を行います。
これに加え、暴飲暴食を避ける、アルコールやカフェインの摂取を避ける、刺激物の摂取を避ける、喫煙を控えるなど生活習慣の改善に取り組みます。6~8週間の内服治療により、多くの潰瘍は治癒します。